【BCPコラム第4話】発災時の「災害情報」と「被害状況」の収集

非常時の「判断」には情報が必要

大地震を始めとする大規模な災害が生じた際、あるいはこれから台風や大雨による被害が想定されている場合は、BCP・事業継続計画に基づいた非常時対応を取る必要があります。しかし、非常時に必要な各種の「判断」を下すためには、災害に関する情報や、社内外の被害状況を把握しなければなりません。

非常時には人手も時間も足りなくなります。どのような情報を調べればよいのか、事前に把握してまとめておくことで、発災時の情報収集をスムーズに行える様にしておきましょう。

① 災害情報の収集について

大規模な災害が発生した際に欠かせないのが「災害情報の収集」です。大地震は予知をすることができませんので、基本的には発災後に順次対応をすることになりますが、地震そのものに関する情報や、津波・土砂災害・地震火災・原発事故といった二次災害に関する情報を集めなければ、次の判断を下すことができません。

また台風や大雨によりもたらされる水害は、「いつ・どこに・どのくらい」の影響が生じるかが事前に分かりますが、それが「災害」に発展するかどうかは実際に直撃してからでなければ分からないため、「現在進行で変わる状況」をリアルタイムに収集する必要があります。こうし災害情報を活用し、経営判断の材料にするのです。

② 被害状況の収集について

災害発生時に「BCP・事業継続計画」に基づく非常時体制へ移行するかどうかの判断には、災害の情報とあわせて被害の状況確認が欠かせません。

災害の規模が大きくとも、自社への影響が軽微であれば平時の体制で対応ができますし、逆に全体的に見れば小規模な被害で済んだ場合も、自社への影響が大きければ非常時対応が必要となります。

「自社において今、何がどうなっているのか」を明らかにすることは、非常時の経営判断を下すための前提となります。BCPに定める優先度の高い重要業務に必要な、社内外の経営資源の被害状況を素早く収集することで、BCPを発動するのかどうか、生き残ったリソースをどこへ投じるのかと言った判断を下すことができるようになります。

災害情報を確認するための道具と情報源

災害情報の収集を行うために必要な道具と、インターネットを用いる場合におすすめしたい情報源について、解説をいたします。

非常時に有効な情報収集の手段について

 

テレビ

災害に関する広域情報をまとめて入手するのに、テレビは役立ちます。欲しい情報を取りに行くのではなく、対策本部などに設置してつけっぱなしにすることで、プッシュ型の情報収集に役立てます。ただし、停電すると使用できないため、後述する電源の確保が必須です。


インターネット

欲しい情報をリアルタイムに取得するためにはインターネットが便利です。停電が生じるとWi-Fiやデスクトップ機器が使えなくなるため、スマートフォンによるモバイルインターネットで情報収集が行える様に準備しておくとよいでしょう。


ラジオ

停電が長期化すると、携帯電話の基地局がダウンするため、スマートフォンによる情報収集も行えなくなります。こうした状況で最後まで使用できるのはラジオです。乾電池で動くラジオを導入し、平時の間に「建物の中のどこで入るか」を確認しておくとよいでしょう。

災害情報を確認するための道具と情報源
  • 小型の手回し充電ラジオ。このサイズでも構いませんので、ラジオは必ず1台以上の準備を。ポータブル電源などを併用できれば、テレビを使えるので、情報収集の幅が広がります。

インターネットによる情報収集で役に立つアプリ・WEBサイト

総合防災アプリ:プッシュ通知により災害の不意打ちを防ぐことができるツール

緊急地震速報やJアラートによる国民保護情報、台風・大雨・大雪などによる防災気象警報、そして自治体から発表される避難指示などの避難情報などをプッシュ通知で得られます。災害の不意打ちを防ぐツールとして役立つため、事前にインストールしたいアプリです。

Yahoo!防災速報アプリと同等の機能を、同じ信頼性で提供するアプリ。情報提供の素早さと画面の見やすさにこだわりがあり、パッと見で分かりやすい情報を得られるのが特徴です。平時にはお天気アプリとしても活用することができます。

NHKが提供するアプリで、非常時の災害情報を素早く収集することができます。災害発生時にはライブ放送を動画で閲覧することもできるなど、テレビがない場所でも信頼性の高い情報を入手することが可能ですので、広域な災害情報の収集に向いています。

水害について

水害に関するリアルタイムな情報

気象庁のWEBサイト内にある機能で、大雨による「土砂災害・浸水害・洪水」の危険度の高まりを、リアルタイムかつピンポイントで確認できるサービスです。現在地や地図上で選択する任意の地点の危険度をチェックできます。

国土交通省が提供するWEBサイトで、河川の洪水に関する危険度をリアルタイムに確認できるサービスです。最寄りの河川の水位情報、ライブカメラによる現在の映像などを、安全な場所から確認することができます。

水害について

川の水位情報(令和483日からの大雨)の実際の画面。全国の河川の現在水位やWEBカメラによるライブ映像を閲覧できますので、目視で川を見に行くという危険な行動を避けるようにしましょう。

気象災害の情報

気象庁のWEBサイトで、地震、噴火、台風、大雨、大雪を始め、各種の気象予報や気象警報をまとめて確認することができます。気象情報・気象警報などはまず気象庁のサイトをチェックし、その他使いやすいお天気サイトを併用するとよいでしょう。

チェコの企業が提供する気象予想サイト、最大10日間先の天気予報を閲覧することが可能です。1週間以上先に台風や大雪などによる影響が想定される状況において、気象庁や各種お天気サイトよりも先の情報を把握したい場合に役立ちます。

NHKが提供するアプリで、非常時の災害情報を素早く収集することができます。災害発生時にはライブ放送を動画で閲覧することもできるなど、テレビがない場所でも信頼性の高い情報を入手することが可能ですので、広域な災害情報の収集に向いています。

SNSによる情報収集


各種SNS

デマ情報も多いと言われるSNSですが、発災時のローカルな情報を最速で収集する場合には役立つツールになります。「○○市 地震」「○○町 被害」「○○川 洪水」など、必要なワードによる検索を行いましょう。

被害状況の収集について

災害情報はプッシュ型の情報収集も可能ですが、自社の被害状況は自分たちが調べなければ誰も教えてくれません。事前に情報収集の準備をしておきましょう。

安否確認について

災害時に重要とされる「安否確認」には2つの側面があります。ひとつは企業の責任として、従業員の安否情報を把握するという道義的な目的。もうひとつは「人」という経営資源に関する被害状況を確認するという目的です。

非常時の情報収集は人も時間も限られますので、できるだけ効率化をする必要があります。従業員が十数名程度の企業であれば、個別連絡だけでも安否確認はできますが、従業員数が数十人・数百人・数千人の企業になると、人力による対応はほぼ不可能です。この場合はいわゆる「安否確認システム」を導入し、作業を自動化することがおすすめです。

安否確認システムは、災害時に手動または自動(例えば震度○以上の地震を対象地域で観測したらなど)で起動する仕組みで、事前に登録されている従業員のE-mailSMSWEBアプリへの通知といった連絡先に対して所定の安否確認通知を送信し、この情報を自動的に集計し、スマホやPCで閲覧できるというものです。

特に規模の大きな企業の安否確認には不可欠なシステムですので、いずれかの企業のサービスを導入すると良いでしょう。

社内の被害状況確認

災害の規模が大きく多数の被害が生じている場合、社内全ての状態を確認するのには時間がかかります。そのため、「BCP・事業継続計画」を策定する際には、特に優先度の高い業務の洗い出しと、その業務に不可欠な「経営資源」をリストアップすることが重要です。このリストを用いて、「最低限これらの状態が分かれば、何かしらの判断が下せる」という状況にしておくことが事前の対策となります。

確認すべきポイント

建物・拠点

本社・支社・工場・店舗などの各拠点の被害状況や、建物の状態などを素早く確認し、被害を受けた施設が稼働できるかどうかを把握します。

設備・資材

オフィス機器、工場設備、店舗什器などの被害状況と、各種資材・在庫などの状況について把握をします。

車両

トラック、営業車、業務に用いる作業車など、事業に車両を用いる場合は被害の状況や燃料の残りの状態などを把握します。

ITシステム

個々人が使用するPCの状態、オンプレミス型の社内サーバーの状況、業務に用いるクラウドサービスの状態などを把握します。

社外の被害状況確認

業務は社内のリソースだけで行うことはできず、インフラ事業者や取引先との関係が必要になります。発災時には自社だけでなく、こうした外部のリソースの状況を確認し、被害が生じているのか、生じていたらいつから営業が再開されるか、難しい場合の代替先をどうするかといった判断を下す必要があります。

気象災害の情報

インフラ

電気・ガス・水道・交通網の状態を拠点ごとに調べ、インフラの稼働状況を確認し、可能であれば復旧の見込を各事業者から入手します。

仕入先

各種仕入を行っている取引先の状況を確認し、被害が出ているのか、出ているとしたらいつ頃営業再開ができそうか、などを把握します。

外注先

日頃各種の業務を依頼している取引先の状況を確認します。被害が大きい場合は代替依頼先の確認などをあわせて実施する必要もあります。

顧客

商品の納品先、あるいは店舗や施設に来店する顧客の被害状況を把握し、自社がいつまでに営業再開すべきかの判断材料にします。

終わりに

災害時の情報収集は、それ自体が目的になるのではなく、その後の「判断」に活用することが重要です。災害情報は「避難」の判断を下すために重要ですし、被害状況は「BCP発動」をするかどうかの判断に不可欠です。収集した情報を確実に共有するための手段、これを用いて意思決定をするための体制などを、あわせて準備する必要があります。

次回のコラムでは、収集した情報の共有・判断について解説いたします。


【コラム】非常時におけるポータブル電源の活用

【コラム】情報収集は「電気」以外での代替が難しい

災害情報・被害状況、どちらの情報収集を行うためにも電気機器が必須です。ワンセグテレビ・ラジオ・乾電池スマホ充電器などは「乾電池」でも使用できますが、やはり使用できる電力量が増えると情報収集の幅や効率が大きく改善します。

ポータブル電源を活用することで、スマートフォンを相当台数充電することができるようになりますので、モバイルによる情報収集や安否確認が大変行いやすくなります。またコンセントによるAC出力が使えることで、大型のテレビによる情報集取や、パソコンとWi-Fiルーターを使用したインターネットが使用できるようになります。

情報収集のための機材は他の手段で代替することが難しいため、ポータブル電源のようにUSB・コンセントの両ポートに電源供給ができる機器を準備すると大変役立ちます。できればソーラーパネルや発電器をあわせて準備し、充電をしながらポータブル電源で電気の安定共有を図れるようにしておくとよいでしょう。

【コラム】情報収集は「電気」以外での代替が難しい

ソーラーパネルによる充電。ソーラーパネルによる発電効率を最大化するためには直射日光が必須です、太陽に対して垂直方向から太陽光を得られる場所を、事前に確認しておきましょう。