【BCPコラム第1話】企業の防災対策とBCP策定の基本

「想定外」では済まされない状況への準備を

「想定外」では済まされない状況への準備を

日本は自然災害の多い国と言われますが、数字で見るとどの程度「多い」のでしょうか。日本の国土面積は約38万平方キロですが、地球の陸地面積である約14,889万平方キロと比較すると、0.25%…陸地の400分の1が日本列島になります。

問題なのは、この小さな列島に多くの自然現象が集中しているという事実です。以下は「火山・台風・地震」が、日本にどの程度集中しているかの数字となります。

主な災害

火山:7.4%


世界にある1,500箇所の火山のうち、111箇所が日本に

台風:10


毎年どこかの陸地に上陸する台風約40個のうち、1割が日本に。

地震:13.7


直近100年で生じたM6以上の大地震、日本は年17.5回発生。

主な災害

火山:7.4%

世界にある1,500箇所の火山のうち、111箇所が日本に

台風:10

毎年どこかの陸地に上陸する台風約40個のうち、1割が日本に。

地震:13.7

直近100年で生じたM6以上の大地震、日本は年17.5回発生。

ということで、わずか0.25%の面積にすぎない日本列島及びその周辺に、地球で生じる自然現象の数割が集中しています。そしてこれら自然現象の「当たり所が悪い」と、いわゆる震災や大規模水害などの「自然災害」となり、生活やビジネスに影響をもたらすのです。

近年生じる「想定外」の多くは「想定内」になりつつある

1995年の阪神・淡路大震災以前は「西日本で地震は生じない」と、2016年の熊本地震以前は「九州は安全」と、言われることがありました。しかし日本の場合、大地震はいつでもどこにでも生じるため、地震の揺れに対して安全な場所というものは存在しません。日本で災害に遭遇することは、「まさか」ではなく「ついに」来たかと考えるべき対象です。

水害に対しては「ハザードマップ」が細かく整備されていますが、近年生じる水害による被害の多くは、このハザードマップで想定された通りの被害となっています。ハザードマップを事前に見ておけば、対策を講じたり避難をしたりすることができるなど、多くの「想定外」は「想定内」になりつつあります。

スマホ・PCで閲覧できる「重ねるハザードマップ」

図:スマホ・PCで閲覧できる「重ねるハザードマップ」

また事業継続におけるリスクは自然現象だけでなく、例えば感染症パンデミックへの対応が必須であることは「コロナウイルス感染症2019」の影響で広く知れ渡りました。さらにサプライチェーンへの影響、政治や紛争などによる海外リスク、突発的なライフラインの停止なども備えの対象となります。

事業継続計画は特別な存在から、あって当たり前の対象に

水害ハザードマップで最大5m浸水すると想定されている場所に建物があり、特段の対策を講じないまま洪水で被害を受けた場合、これは「想定外」で済まされるでしょうか。大地震の揺れで未固定の什器が転倒して従業員が死傷した、これも「想定外」と言えるでしょうか。仕入れや外注の多くを依存している国で紛争が発生し、外務省から退避勧告が出ているにもかかわらず対策を講じず、自社の業務も止まってしまうことは「想定外」でしょうか。

事業継続計画で対象とするリスクの多くは、本当の意味での「想定外」ではなく、実は想定されている事態であるものが多いのです。できたはずの対策を怠って被害や死傷者が生じた場合、その原因が自然災害であったとしても、契約不履行や損害賠償などの責任を負わねばならない可能性もあります。「生じるかもしれない事態への備え」が必要なのです。

 

事業継続マネジメント(BCM)とは?

事業継続マネジメント(BCM)とは?

この備えとして必要な「事業継続計画」ですが、これを指す言葉として2つの単語が使われています、それが「BCP」と「BCM」です。今回のコラムでは「BCM」という言葉を使いたいと思いますが、少し補足します。

 

BCPからBCMへの変化

日本において「事業継続計画(BCP)」という言葉が使われ始めたのは、2005年に政府から「事業継続ガイドライン」が示されたことがきっかけとなります。現在は改訂3回目を経た2021年版が最新ですが、2013年の改訂2回目にある大きな変化がなされました。それが「事業継続マネジメント(BCM)」という言葉の登場です。

事業継続計画(BCP)と事業継続マネジメント(BCM)は、概念としては同じ意味で使われる言葉であり、ともに非常時における事業継続のための計画を指しています。当初は「BCP」という言葉のみが使われていましたが、2013年のガイドライン改訂にあたり、「BCP」は「事業継続のための狭義の計画」という意味に、そして広い概念としては「BCM」という言葉が使われるようになりました。

BCM」という言葉を使う場合、「BCP」は狭い意味での事業継続計画(マニュアルなど)を意味する言葉になります。厳密にどちらの言葉を使わなければならないという決まりはありませんが、「BCMにおいて事業を守るための要素のひとつがBCPである」と整理すると分かりやすくなるでしょうか。

BCMを策定することで得られる2つの良いこと

BCMを策定する「目的」、あるいは策定すると得られる「良い効果」は2つあります。「非常時における損害が減る」効果と、「早期に復旧を行い成長に繋げられる」効果です。

以下の図はBCMの効果を現したグラフです。縦軸が利益や売上、横軸が時間の経過となります。通常であれば時間の経過とともに一定の利益・売上を得ることができますが、平時の体制ではどうにもならない非常事態が生じると、利益・売上は減少し、また復旧が完了するまで継続します。

BCMを策定することで得られる2つの良いこと

図:BCMの概念図

BCMがない場合(赤線)、非常時において売上はゼロとなり、復旧にも長い時間がかかりますが、各種の対策や計画を定めている場合(青線)、売上はゼロまで落ちず、また復旧も早い段階で行うことができます。競合他社の復旧に先んじて営業を再開することができれば、シェアを吸収することで成長に繋げることも可能です(賛否はともかく概念としてです)。

このうち「損害を減らす」準備は主に物理的な防災対策で、「復旧を早める」準備は主にマニュアルなどを用いた再調達計画で、それぞれ準備をすることになります。この2つの要素は「狭義のBCP」策定において検討することになります。

BCMに含めるべき項目

BCMに含めるべき項目

  • BCMをどこまで作りこむかは、企業の体力(さらに言えば担当となった方がどこまで頑張れるか)や、投じる予算などによって定まりますが、検討すべき項目は規模に関わりなくおおむね同じです。特に次の6つの項目が重要となります。

      リスク想定

    BCM策定で最初に行うことは、そもそも何に対して備えるのかを考える「リスクの想定」です。防災対策を行うにも復旧計画を立てるにも、その対象が大地震なのか水害なのか、あるいは感染症なのか輸入停止への備えなのかで行うべき内容は変わります。

    自然災害において特に注視すべき対象は、地震・水害・噴火・感染症パンデミックなどが上げられますが、大地震は日本中どこでも対策が必須であるのに対し、水害や噴火は生じる場所が決まっていますし、感染症は特に都市部で影響が大きくなります。

    作成するBCMがそもそも「何に備えるのか」を最初に考えてください。まずはハザードマップをチェックすることが基本になります。

      防災対策

    事業継続の計画を「狭義のBCP」で検討する場合、概念だけでいえば「人」というものは経営資源として扱います。つまり、従業員が死傷することを前提とした計画を立てる必要があるということです。さらに非常時においては全てを維持することは難しいため、できるだけ優先順位を定めて事業を守る計画を立てることが推奨されます。

    しかし、言うまでもなく「人命」を守ることは重要です。そこでBCMの項目としては、「事業を守るための防災」を検討する前提事項として、まずは業務の重要度に関係無く、自社に関わる全ての人の命を守るための防災対策を検討し、事前に実施することが重要となります。これがBCMにおける「命を守る防災対策」です。

      BCP策定

    BCP策定に関する難しそうなマニュアルには、「BIA・事業影響度分析」の実施や「RLO・目標復旧レベル」「RTO・目標復旧時間」の設定、といった言葉が登場しますが、これらは狭義のBCPを策定する際に用いる分析手法や概念です。

    BIA・事業影響度分析」を実施することで「非常時であろうとも止められない業務」がどれであるかを定め、これが停止した際に「いつまでに・どの程度の水準で」復旧させるかの目標を定めたものが「RLO・目標復旧レベル」「RTO・目標復旧時間」となります。

    「何をどのくらいがんばって守るか」を定め、その守り方・復旧方法を具体的にしたものが狭義の「事業継続計画(BCP)」となるのです。小規模な事業者であれば経営者が「エイヤ!」と定めますし、規模の大きな企業であれば前述の分析手法を用いて精緻に定めることになります。

      初動対応

    ここまでは災害や非常事態が生じる前に行う「事前対策」ですが、実際に非常事態となった際の計画も必要になります。防災用品の使用や避難をするための準備、発災時の情報収集や安否確認、また対策本部の設置と内外のコミュニケーション計画などを定めます。

    発災時にはBCMを策定した担当者が不在であったり、また現場が混乱していたりすることも想定されますので、「読むだけで分かる紙のマニュアル」などを物理的に作成しておくことも重要です。事前に準備した「防災+BCP」を実際に動かすための準備が初動対応です。

      リスクファイナンス

    非常時において「人命」以外の大部分はお金の力で「なんとか」することができます。しかし逆に言えば、人命を守れても資金が続かなければ企業は倒産することになります。これを避けるための事前対策が非常時に向けたお金の準備です。

    具体的には、「非常時にいくら必要になるか」「それをどのように工面するか」の2つを検討します。必要額については「復旧費用・売上減少の補填・固定費」について見積を行い、調達面については「自己資金・保険・借り入れ」などの計画を立てます。

    特に保険の加入は発災前でなければできないため、自己資金だけでの対応が難しそうな場合は、事前の対応が不可欠となります。

      保守運用

    策定したBCMはいつ必要になるか分かりません。それが明日なのか、1年後なのか、30年後なのか、また策定した担当者が在籍しているかどうかも分かりません。一方で企業は日々新陳代謝をしていますので、BCMの内容はメンテナンスをしなければ使い物にならなくなってしまいます。

    そこで、BCM策定時には最初から保守ありきで計画を立てることが重要です。ここまでにご紹介した①~⑤までの内容を定期的に見直したり、マニュアルやリストの更新をしたりする作業。防災訓練や机上演習の定期的な実施などが必要です。防災や非常時への備えは「瞬間」ではなく「長距離走」ですので、保守込みでの計画を立てることが重要なのです。

終わりに

  • 今回はBCMの概要とその要素について解説をいたしました。次回以降のコラムで要素の深掘りをして参りますが、①~⑥全てを掘り下げますと書籍1冊分となりますので、今回のシリーズでは業種や企業規模に関わらず重要な、「④初動対応」に関するポイントを細かく解説して参ります。


【コラム】非常時におけるポータブル電源の活用

【コラム】非常時におけるポータブル電源の活用

様々に進化する防災グッズの中でも、「ポータブル電源」は特に変化が著しいアイテムのひとつと言えます。ポータブル電源は、従来の防災・BCMにおいて課題であった「電気を貯める」ことを容易に行える道具であり、近年のアウトドアブームにも後押しされる形で、機能・価格が進化しています。

これまでの停電対策としては「電気を使わずに手作業でがんばる」ための準備が主流でしたが、ポータブル電源を用いることで、停電時にも電気を使うという選択肢がとりやすくなりました。この非常時におけるポータブル電源活用についても、当コラムシリーズにて各種解説をして参ります。

【コラム】非常時におけるポータブル電源の活用

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