【BCPコラム第6話】企業の防災・BCPにおけるポータブル電源の活用

企業向けにも実用レベルになってきたポータブル電源

一連のコラムシリーズでは、災害大国日本において不可欠な「BCM・事業継続計画」の全体像をご紹介しつつ、重要な構成要素である「初動対応計画」の詳細について解説をして参りました。それぞれのテーマにおいて、ポータブル電源の活用方法を簡単に紹介してきましたが、今回はシリーズ最終話ということで、企業におけるポータブル電源の活用そのものについて紹介します。

進化の著しいポータブル電源

企業や産業現場における「蓄電池」の活用と言えば、従来「UPS・無停電電源装置」がその代表でした。これは、現在でも産業機器・医療機器・サーバー・デスクトップパソコンなどを用いる際に不可欠な装置として普及しています。

コンセントが使用できる蓄電池、いわゆる「ポータブル電源」的な装置も以前から存在はしていましたが、コンセントからのAC出力が小さかったり、容量が小さかったりと、レジャー用途などには良かったのですが、企業や現場での使用は時期尚早という状況が続いていました。

しかし2020年代以降になり、AC出力「1500W」を超えるポータブル電源が登場し始めたことで、企業においても活用できるシーンが大きく広がりました。1500Wと言えば「壁のコンセント」と同じ出力であり、100Vで動作する「普通の家電」「普通のOA機器」を何でも使用できる出力です。

さらに、ポータブル電源の大容量化、長寿命化、充電の高速化といった進化が進んだことで、各種の現場やオフィスにおける使用にも実用レベルとなり、防災対策においてもようやく「電気を貯める」という手段を取り入れることができるようになったのです。

防災用品に関する展示会などでも、近年は大容量・高出力のポータブル電源が多く出展されるようになり、選択肢として身近になっていることを感じます。

非常時におけるポータブル電源の活用について

ポータブル電源を平時から活用する

ポータブル電源があれば非常時に役立つことは自明です。しかし予算には限りがありますので、災害時に役立つ物を全て導入することはできません。そこで近年、ポータブル電源に限らず様々な防災用品について、「平時から活用し、非常時“にも”使う」という考え方が取り入れられています。

ポータブル電源もできるだけ平時から活用し、非常時にも使える様にすれば、防災専用にならないため予算を節約することができます。いくつかの事例をご紹介します。

発電器が使えない場所の電源に使う

コンセントからの電源が得られない場合、工事現場や作業現場ではガソリンなどを用いた「発電器」が使われます。しかし発電器は排気ガスが出るため屋内では使用することができず、またエンジンの動作音がかなり大きいため、時間帯や場所を選びます。そのため、各種の現場の多くでは、すでにポータブル電源が活用されているのです。

平時の活用イメージ

室内現場で

室内における工事や作業の現場では、照明機器の点灯、コンセント接続を必要とする電動工具の使用、バッテリータイプの機器の充電などに、電源が使用されます。室内では発電器を動かすことができないため、ポータブル電源が役立ちます。

イベントで

イベント・催事・即売会でもポータブル電源が役立ちます。屋内イベントの場合は排ガスが出ないため、また屋外イベントの場合も発電器の騒音を避けたい場合などに便利です。レジや管理用のパソコンを動かしたり、プリンタから紙を出力することも可能となります。

夜間や車内で

エンジンタイプの発電器は「原付」バイク並の動作音が生じるため、静かな場所や夜間の使用は難しいことがあります。ポータブル電源は冷却用のファンの回転音しかしないため、周囲の環境や時間帯にかかわらず電気の供給が可能となります。

期間限定で電源を用意したいシーンで使う

既存のオフィスや店舗においても、コンセントの無い場所に期間限定で電気機器を設置したいことがあります。増設工事などをするほどの予算はかけられないが室内に電源が欲しい、という場合にはポータブル電源が役立ちます。

期間限定の活用イメージ

出入り口で

感染症によるパンデミックなどが発生すると、感染拡大防止対策の一環として、建物の出入り口などに消毒ディスペンサーやカメラ型の体温計等が設置されます。こうした期間・時間を限定する機器を日中のみ動かす電源として活用できます。

受付で

オフィスのエントランスなどに映像用のモニターやデジタルサイネージを設置したり、季節を限定してイルミネーションや装飾を設置する際など、コンセントを増設する程ではないが電源が欲しいという場合には、ポータブル電源が便利です。

離れた場所で

仮説トイレに照明を配置したい、一時的に設置する倉庫に防犯カメラを設置したい、コンセント設備の無い自動車の車内で一時的に電気を使いたい、などの期間限定利用についても、排気ガス・騒音の無い電源としてポータブル電源を活用することができます。

ポータブル電源と発電器の併用

非常時にも平時にも便利なポータブル電源ですが、本質的には「蓄電池」であるため、当然ながら電気を使い切るとそれ以上の利用ができなくなります。そのため、何かしらの充電手段と併用して使用することで、特に長期間停電が続く場合に役立てられるようになります。

ソーラーパネルと併用する

ポータブル電源と相性のよい充電手段は、ソーラーパネルです。ガソリンやカセットガスなどの燃料が不要で、排気ガスを出さず、動作部分がないため騒音も生じません。天候に左右され、夜間は使えないというデメリットはありますが、晴れ間を得られればポータブル電源を無制限に充電することができるというメリットが大きな装置と言えます。

災害により停電が長期化すると、被災地の中でガソリンやカセットガスボンベなどの燃料を調達することが難しくなります。災害の規模が大きい場合は、支援物資としてこうした燃料の他、乾電池なども大量に調達されるため、被災地以外においても入手が難しくなることが想定されるため、燃料が不要という特徴が生かされます。

またソーラーパネルは単体で使用すると出力が低めとなりますが、AC1500W以上の出力を持つポータブル電源と組み合わせることで、事実上どのような家電も動かせるようになるため、セットで運用するのがオススメと言えます。

発電器と併用する

ガソリンやカセットガスで動作する発電器と、ポータブル電源を組み合わせて使用することもおすすめです。まず発電器の弱点である排気ガスや騒音の問題は、発電器による充電場所と、ポータブル電源の使用場所を異なる場所にすることで解決します。屋外で充電し室内で使うなどの対応を取るなど、場所・時間をずらして電気を使用することが可能となります。

またソーラーパネルと同じく、発電器が小型である場合や、正弦波を出せない発電器を用いる場合も、一度AC1500W以上の出力を持つポータブル電源を充電することで解決します。これはコンセントのついていない自動車のシガーソケットなどに、カーインバーターを取りつけて電気を使いたい場合にも有効な方法です。


さらに、発電器は使用するための準備として、燃料やオイルの補給、発電器の稼働などに手間とスキルが必要となりますが、ポータブル電源であればスイッチを押すだけですぐに電気を使うことができます。発災直後の立上げにはポータブル電源を使用し、その後発電器の準備が整ったら充電を行う、といった組み合わせも便利です。

普段から業務で活用していれば問題ありませんが、防災専用に準備している発電器を使用するのは大変です。ガソリンの備蓄、オイルの準備、立上げなどは慣れていなければ行うことができません。

終わりに

6回にわたり、企業におけるBCM(事業継続マネジメント)および初動対応に関するポイントの解説を、ポータブル電源を活用する方法と合わせて紹介して参りました。平時のビジネスには電気が不可欠ですが、非常時にも電気が使用できるようになると選択肢が大きく増えます。

近年になり使える様になってきた、新しい防災の選択肢である「電気」の使用をぜひ取り入れていただきたいと思います。また、防災の本番は発災時ではなく平時の準備です。本番を迎えてから公開しないために、事前対策をぜひご検討ください。